伊藤詩織:今日、裁判を傍聴できたのは本当にわすかな方でしたので、法廷で意見陳述した内容をこちらでも読み上げたいと思います。

伊藤詩織さん 裁判意見陳述 全文

この度は長い時間、審議を していただきありがとうございました。

民事裁判を通しこれまで刑事事件ではオープンにならなかった部分を文章や証言を通じ論議できたことが大変意義のあることだったと思います。

痛みで目が覚めるまで、記憶をなくしていたという体験は、何年経っても性暴力という被害に加え私を苦しめました。

なぜ覚えていないのか?なぜホテルに行ったのか?なぜ目が覚めるまで抵抗できなかったのか?
これまで何度も繰り返されてきた質問です。しかしこれらに私は答えることができません。寿司屋でめまいを感じてから記憶が一切ないのですから。

突然記憶がなくなる、起きたら知らない場所にいる、裸で性行為を受けている。

自分が知らないところで何が起きたのか?

知らないという混乱は、私の中で点と点を結び合わせるまでに時間がかかった上に、知らない間に自分以外の誰かに体をコントロールされたと言う恐怖、自分自身を守れなかったという事実は、回復の大きな妨げになりました。

私たちは普段生活していく上で当たり前のように何を食べるのか、どこに行くのか、自分の行動は全て自分自身でコントロールしています。それが突然、操り人形になってしまったように自分の意思に反して犯される。

私が受けたのはそんな経験でした。
人間を家に例えたのなら、性は家の土台部分です。
性暴力はその土台を揺るがしてしまうのです。

意識のないまま受けたこの行為は、知らないうちに自分の家に誰かが侵入し、家の中をメチャクチャにされてしまうような感覚でした。

今まで生活していた空間だったのに、どこに何があるのか分からなくなり、これまで当たり前のようにしていた料理やコーヒーを入れることさえ、そんな日常生活ができなくなってしまいました。

家の土台を揺るがされるので、家族や周りの友人にもその被害は長期間およぶのです。

前回の尋問で「準強姦は意識のない間に受ける被害だから、強姦より被害が軽いのでは?」との質問が被告代理人よりありました。被害の重さは体験した者にしか分からず、それぞれを比較することなど到底できないことだと思います。

私は被害直後に被告に言われた「今までできる女みたいだったのに困った子供みたいで可愛いね」と言われた言葉が忘れられません。

自分が何をしたのか、何が起こったのか理解できず誰に助けを求めていいのかわからない。
私は文字通り「困った子供」のようだったのです。

普段だったらできるような行動ができなくなったことも確かです。
なぜすぐに助けを求めなかったのか?
自分の家、安全な場所に行くということがその時の私にとっては最優先でした。

被告が連泊していた高級ホテルは私にとっては安全な場所には思えませんでした。
性暴力はこのように、誰かを一瞬にして支配し右も左も分からない子供のようにしてしまう行為です。

性被害者を取り巻く法的社会的システムが少しでも良くなるようにと願い、2017年この事をこの体験を公にしました。自分の家族や将来を考えたら、できれば公にしたくなかったことでした。

今日まで誹謗中傷、脅迫的な言葉も受けてきました。その結果、日本で生活していくことが困難になり、現在はロンドンに住んでいます。

今日ここに伺うために数日前に日本に帰国しました。帰国を控えた前日にパニックアタック に襲われました。4年経っても PTSD の症状に襲われます。これまでも命の危険を感じるような体験はありました。しかし 性被害は一度のことでした。それでも未だにパニックアタック に襲われ睡眠障害に悩まされます。

私は被害後、勤務していた先が被告の勤務していた会社の隣であったため戻れなくなりましたが、海外で少しずつ仕事を再開させてきました。

南米のコロンビアのゲリラが支配する危険な地域や、アフリカのシエラレオネでの性暴力に関する取材など、精神的体力的にも 負担が多い取材を繰り返してきました。

ジャーナリストとして自然な行動だと考えていましたが、今年、ロンドンでセラピーを受け始めてから初めて、危険な取材を行うこと自体が、身を危険にさらし、困難を乗り越えることでトラウマと向き合おうとする行為でだったかもしれないということを知りました。

あの日から私は自分の尊厳を取り戻すためにできる限りのことを尽くしてまいりました。
この民事裁判はその一環の一つです。
真実を少しでも明るみにし、今後同じようなことが起きないために、少しでもこれまでの歩み、そしてこの裁判が同じように苦しんでいる性暴力被害を受けた方のお役に立てれば嬉しい限りです。

ありがとうございます。
(意見陳述 全文 ここまで)


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