研究チームの共同責任者の大竹モルナー裕子です。専門は心理学とトラウマに関する国際政策学で、オックスフォード大学に所属しています。本日は、性暴力の被害経験に関する質的研究の中間報告をさせていただきます。
当事者が体験した性暴力被害は、日本社会ではほとんど知られていない
研究チームの立上げ経緯について説明します。日頃、研究の過程で、性被害当事者の方とお話をする機会があります。そのなかで、「当事者が感じている被害の実態と、社会や警察が認識している性暴力は異なっているのではないか?」「法律についても、実態に合ったものになっていないのではないか?」という疑問が沸いてきました。
被害者が「知人や警察などに説明をしても理解してもらえない」、「(被害体験について)声をあげづらかったり、説明しにくい」と話すのは、そのせいではないか?
私のような専門家が、当事者の体験、性被害の実態を一般の人に分かりやすい形にして、世の中に届けることで、そのギャップを埋めることができるのではないか?と思い、仲間の研究者に呼びかけました。
その後、呼びかけた仲間と「性暴力の被害経験に関する研究」チームを立ち上げ、51名の性暴力被害者へのインタビューや、Webへの書き込みを通じた調査・分析を実施しました。本日はその結果について報告いたします。
被害者が「知人や警察などに説明をしても理解してもらえない」、「(被害体験について)声をあげづらかったり、説明しにくい」と話すのは、そのせいではないか?
私のような専門家が、当事者の体験、性被害の実態を一般の人に分かりやすい形にして、世の中に届けることで、そのギャップを埋めることができるのではないか?と思い、仲間の研究者に呼びかけました。
その後、呼びかけた仲間と「性暴力の被害経験に関する研究」チームを立ち上げ、51名の性暴力被害者へのインタビューや、Webへの書き込みを通じた調査・分析を実施しました。本日はその結果について報告いたします。
日本の成人女性の13人にひとり(左利きと同率)が被害経験を持つ日本
調査研究報告に入る前に、日本の性暴力被害について、統計データからわかることを共有いたします。
内閣府の男女共同参画局が、「男女間における暴力に関する実態調査」を3年に一回ずつ成人男女に対して行っています。
その調査によると、「無理やり性交された経験はありますか?」という質問について、「1回以上ある」と答えた女性が13人にひとり(7.7%)という結果でした。
「私のまわりには、被害当事者の方はいない」という声をよく聞きますが、女性の友人が15人いれば、少なくともひとりは被害にあっていらっしゃいます。思っていたより多い数字ではないでしょうか?みなさんの周囲にも、被害者の方はいらっしゃる可能性が高いと思います。
内閣府の男女共同参画局が、「男女間における暴力に関する実態調査」を3年に一回ずつ成人男女に対して行っています。
その調査によると、「無理やり性交された経験はありますか?」という質問について、「1回以上ある」と答えた女性が13人にひとり(7.7%)という結果でした。
「私のまわりには、被害当事者の方はいない」という声をよく聞きますが、女性の友人が15人いれば、少なくともひとりは被害にあっていらっしゃいます。思っていたより多い数字ではないでしょうか?みなさんの周囲にも、被害者の方はいらっしゃる可能性が高いと思います。
via www.gender.go.jp
加害者の約7割は顔見知り、知らない人の割合は約1割
また、「無理やり性交された」と回答した人に対して「相手は誰でしたか?」という質問をしました。「配偶者」「親・兄弟・それ以外の親戚」「交際相手」や「職場関係の人」「(前述以外の)知人」という回答が全体の74.4%になります。
無理やり性交された相手は、「知っている人」がほとんどであることが分かります。
テレビドラマや映画などで、知らない人から夜道で突然・・・・というシーンをレイプのイメージとして持っていらっしゃる方が多いのですが、実は、身近な人が加害者なのです。この点も、日本で誤解されている性被害実態のひとつです。
無理やり性交された相手は、「知っている人」がほとんどであることが分かります。
テレビドラマや映画などで、知らない人から夜道で突然・・・・というシーンをレイプのイメージとして持っていらっしゃる方が多いのですが、実は、身近な人が加害者なのです。この点も、日本で誤解されている性被害実態のひとつです。
via www.gender.go.jp
続いて、被害にあった時期についてです。約90%が「40歳未満」という回答でした。なかでも「中学卒業から30歳まで」がおよそ70%と、最も多くなっています。
一方で、被害に合った時期が小学生以下という回答も11%という結果でした。
一方で、被害に合った時期が小学生以下という回答も11%という結果でした。
via www.gender.go.jp
約7割の被害者が誰にも相談していない、警察に通報した割合は1割未満
つづいて、被害にあったときの相談先についてです。「被害に合った時に助けを求めましたか?その場合、どこに助けを求めましたか?」という質問に対して、67.5%が「だれ(どこ)にも相談しなかった」と答えています。
「友人・知人」に相談をした人は、22.2%です。逆に、警察や医療関係のような専門機関に行く人は6%と非常に少ないことが分かります。
日本社会で、性暴力被害の実態がほとんど知られていないのは、約7割の被害者が誰にも話していないからです。「私の周囲には被害者はいない」とみなさんが感じるのも、被害者が話さないのが原因です。
「友人・知人」に相談をした人は、22.2%です。逆に、警察や医療関係のような専門機関に行く人は6%と非常に少ないことが分かります。
日本社会で、性暴力被害の実態がほとんど知られていないのは、約7割の被害者が誰にも話していないからです。「私の周囲には被害者はいない」とみなさんが感じるのも、被害者が話さないのが原因です。
via www.gender.go.jp
性暴力被害は、死にいたる暴力です
続いて、性暴力を受けた際の、心や体への影響についての調査結果です。
WHO(世界保健機関)がデータを収集しており、その報告書について説明します。
下の図で注目したいのは、性暴力の最も甚大で、かつすべての被害当事者に共通の影響は「自殺念慮」です。性暴力は、被害者に相当な精神的な負担を強いるものであることが読み取れます。
WHO(世界保健機関)がデータを収集しており、その報告書について説明します。
下の図で注目したいのは、性暴力の最も甚大で、かつすべての被害当事者に共通の影響は「自殺念慮」です。性暴力は、被害者に相当な精神的な負担を強いるものであることが読み取れます。
via www.moj.go.jp
続いて、どのように死亡念慮に至るかです。図が示すように、いくつかの経緯をたどって被害当事者を死に至らしめることが分かります。
つまり、性暴力の影響とは被害当事者にとって、死にいたるほどの重大な出来事であると言えるのです。
つまり、性暴力の影響とは被害当事者にとって、死にいたるほどの重大な出来事であると言えるのです。
via www.moj.go.jp
日本社会のカルチャーや考え方も、性暴力被害の発生原因のひとつ
最後の図です。「なぜ性暴力は起こるのか?性暴力の発生の原因は何なのか?」について説明した図となります。WHOの調査から抜粋したものです。
これによると、社会や政策、コミュニティや組織のカルチャー、考え方が非常に大きな要因として働いていると考えられます。個人レベルの問題だけが原因ではないことが分かります。
男性優位の社会や組織であったり、暴力を容認する組織だったりすると、性暴力が発生するリスクが高まります。
そのなかでも、性暴力に対する法的措置が弱い政策を取っている国では、発生リスクが高いと記載されており、人々の規範意識を育てるためにも、法的な措置が極めて重要であると言えます。
これによると、社会や政策、コミュニティや組織のカルチャー、考え方が非常に大きな要因として働いていると考えられます。個人レベルの問題だけが原因ではないことが分かります。
男性優位の社会や組織であったり、暴力を容認する組織だったりすると、性暴力が発生するリスクが高まります。
そのなかでも、性暴力に対する法的措置が弱い政策を取っている国では、発生リスクが高いと記載されており、人々の規範意識を育てるためにも、法的な措置が極めて重要であると言えます。
via www.moj.go.jp
性暴力の被害経験に関する研究チームのメンバー
共同責任者
目白大学 斎藤梓(臨床心理学)
オックスフォード大学 / 東京大学 大竹 裕子(心理学・国際保健政策学)
研究分担者
精神女学院大学 岡本かおり(臨床心理学)
一般社団法人 Spring 金田智之(社会学)
東京大学 宮本有紀(精神看護学)
東京大学 江口のぞみ(精神看護学)
東京大学 松本衣美(精神看護学)
東京大学 松井周(精神看護学)
東京医科歯科大学 高野歩(精神看護学)
目白大学 斎藤梓(臨床心理学)
オックスフォード大学 / 東京大学 大竹 裕子(心理学・国際保健政策学)
研究分担者
精神女学院大学 岡本かおり(臨床心理学)
一般社団法人 Spring 金田智之(社会学)
東京大学 宮本有紀(精神看護学)
東京大学 江口のぞみ(精神看護学)
東京大学 松本衣美(精神看護学)
東京大学 松井周(精神看護学)
東京医科歯科大学 高野歩(精神看護学)
関連リンク
報告会の詳細:https://peatix.com/event/635896?lang=ja
報告会のレポート
性暴力の被害経験に関する質的調査報告
http://www.moj.go.jp/content/001299302.pdf
報告会のレポート
性暴力の被害経験に関する質的調査報告
http://www.moj.go.jp/content/001299302.pdf
性暴力被害の実態を知る 調査結果報告会レポート 今後の予定
01.左利きと同じ出現率(7.7%)で、女性が性暴力被害にあっている日本の現状
02.調査方法とリサーチクエスチョン
03.望まない性交の種類(1)
04.望まない性交の種類(2)
05.被害を被害として認識することの難しさ(1)
06.被害を被害として認識することの難しさ(2)
07.性暴力被害の心身の影響(1)
08.性暴力被害の心身の影響(2)
09.被害を人に伝えること、支援を考える(1)
10.被害を人に伝えること、支援を考える(2)
11.まとめ(1)
12.まとめ(2)
13.質疑応答(1)
14.質疑応答(2)
02.調査方法とリサーチクエスチョン
03.望まない性交の種類(1)
04.望まない性交の種類(2)
05.被害を被害として認識することの難しさ(1)
06.被害を被害として認識することの難しさ(2)
07.性暴力被害の心身の影響(1)
08.性暴力被害の心身の影響(2)
09.被害を人に伝えること、支援を考える(1)
10.被害を人に伝えること、支援を考える(2)
11.まとめ(1)
12.まとめ(2)
13.質疑応答(1)
14.質疑応答(2)