※写真:性被害の後遺症により、世界がモノクロに見えるようになったことをきっかけに、モノクロ写真家になった、にみやさをりさんの写真集「幽き(かそけき)声」より

嘘つき呼ばわりされたことが、レイプ被害自体より辛かったです

レイプ被害自体もつらかったのですが、それ以上に苦しかったのは、周囲からの心ない言葉です。「本当に被害にあったのか?」と嘘つき呼ばわりされました。いわゆる”二次被害”です。それが、私の心をメチャクチャに壊しました。

そのため、長い間、自分の身に起きたことが性被害であると確認を持つことができませんでした。最初のレイプはまだしも、それから数ヶ月にわたって性的関係を強いられたことを、どう言えばいいのだろう。「なぜ誘いを断れなかったのか?」「なんで抵抗しなかったの?」「会わないようにすればよかったんじゃないか?」と、責められても仕方がない、そう思っていました。

昨年やっと「あなたは間違いなく被害者」「あなたは悪くない」と言ってもらえました

強姦は犯罪です。

怒りは100%加害者に向けていいはずです。にもかかわらず、周囲から疑われたこともあいまって、被害認識が薄く、自分が悪い、自分のせいだ、自分のせいでこうなったんだと、自分をせめていました。

昨年、現在の主治医やカウンセラーと出会い、「あなたの体験したことは、間違いなく被害なのよ」と言っていただいてはじめて、私に起きたことが、性被害だったと思うことができました。ここにいたるまで、20年以上かかりました。

被害者は自分の身に起きたことが、衝撃が大きすぎて、何が何だかわからなくなることがあり、特に相手が見知った人だと、あの人がこんなことをするわけないという気持ちが先に立って、自分が悪かったんだ、と自分を納得させる方向に持っていったりします。

被害認識をなかなか持てないことで、性暴力被害者の回復はどんどん遅くなります。私もそうでした。

「あなたの経験したことは被害なんだよ」「被害って思っていいんだよ」と言ってくれる人が一人でもいたら、全然違うんじゃないかなと思います。

また、自分の身に起きたことが被害だと認識できないと、誰にも助けを求めることができません。人は辛い目にあったとき、誰かに相談し、その人が理解者になってくれることではじめて、回復へ向けて進むことができます。

そのためには、こういうものが被害で、こういうものが性暴力なんだと、社会全体が正しい認識を持つ必要があります。相談された側が、相談されている内容は性被害なんだと気づけて、当事者に伝えることができれば、被害者の置かれている状況は格段に改善されると思います。

臨床心理士・齋藤梓さんの解説

日々、被害相談を受けていますが、長期間、自分の身に起きたことが被害だと思えていない方が、多くいらっしゃいます。

被害を受けた方が、自分の身に起きた出来事を被害だと思えないのは、かなり大きな問題ではないかと考えています。

(性被害は)見知らぬ人から路上で突然襲われるもの、というイメージが強くあって、それと状況が違うから、自分の出来事が被害だと認識できないという場合も多いです。

死にたいと思ったり、希望する仕事につけなかったり、進路を失ってしまったり、すごく人生を歪められてしまったり、大きな影響が出ているのに、何が原因なのか分からない・・・・。

身近な人も社会も、被害者を責める傾向にあり、被害者の方は「それは被害なんだよ」とか「あなたが悪くないんだよ」と、誰にも言ってもらえず、当たり前のように自分が悪いと思っています。「自分が悪い」と思っているから、被害だと気が付かないのです。

そんなとき、なぜ自分がこれほど不調なのかと考え続けて、いろいろと情報を探し、たまたまたどり着いた先で、「それは被害なんだよ」と言ってくれる人に出会い、やっと被害だと認識できるようになる方がいらっしゃいます。

誰かに相談した時に、「あなたは悪くないんだよ」「それは被害なんだよ」と言ってもらえるかどうかは、本当に大きな分かれ道だなと思います。

弁護士・上谷さくらさんの解説

にのみやさんのような(自分を責めてしまう)被害者心理は、よく耳にします。加害者が会社を辞めることになったり、離婚することになったりすると、彼の人生を私が潰してしまったと、被害者の方は全然悪くないのに、自分を責めてしまうんです。

また、「あなたは悪くないんだから、自分を責める必要はないんですよ」と言ってくれる人に出会ったとき、「悪くないと言ってもらえたことに、すごくびっくりする」と被害者の方がおっしゃるという話も本当によく聞きます。
次回、被害の後遺症がどのようなものであったのか、お話ししたいと思います。

(第3回につづく)
にのみやさをりさん

にのみやさをりさん

    ■にのみやさをりさんプロフィール
  • 1970年生まれ。横浜市在住。
  • 1997年、初めてカメラを手にする。
  • 2001年より年に一度のペースで、東京都国立市の喫茶店「書簡集」にて個展を催す。
  • 2007年から2012年まで性犯罪被害者らと共に「あの場所から」に取り組む。
  • 2010年夏、第6回アンコールフォトフェスティバルのAsian women photographers' showcase 2010にて『あの場所から』を上映。性犯罪被害者サポート電話「声を聴かせて」の活動を開始。
  • 2011年秋、窓社より写文集「声を聴かせて/性犯罪被害と共に」を出版。
  • 2012年6月、東京・禅フォトギャラリーにて個展「鎮魂景」
  • 2013年冬ChobiMela 7 international festival of photography
    Bangladesh,2013(Theme:Fragility,"From That Place: The Voice of Being")
  • 2014年4月5日から5月5日Reminders Photography Strongholdギャラリーにて「彼女の肖像~杏子痕」展を開催
  • 2018年東京・代々木「cafe nook」にて『「乳白」、そして「忘白」へ』写真展&朗読劇上演。
  • 2018年11月藤元敬二氏との二人展「聴くこと」開催
  • 2019年6月東京・代々木cafe nookにて「黎明歌」開催
■上谷 さくらさん プロフィール
福岡県出身。青山学院大学法学部卒。毎日新聞記者を経て、平成 19 年弁護士登録。犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員。青山学院大学法科大学院実務家教員。保護司。殺人、性暴力被害、交通事故等の犯罪被害に関する刑事事件、民事事件を中心に活動している。焼肉酒家えびす集団食中毒事件被害者弁護団団長、軽井沢スキーバス転落事件弁護団。110 年ぶりの刑法改正の会議等にも関わる。共著『2訂版 ケーススタディ 被害者参加制度損害賠償命令制度』(東京法令出版/2017 年)『犯罪被害者支援実務ハンドブック』(東京法令出版/2017年)など。その他論文、講演多数。
■齋藤梓さん プロフィール
目白大学人間学部心理カウンセリング学科講師・臨床心理士。上智大学、同大学院で臨床心理学を学ぶ。臨床心理士として学校や精神科に勤務する一方で、東京医科歯科大学や民間の犯罪被害者支援団体にて、殺人や性暴力被害等の犯罪被害者、遺族の精神的ケア、およびトラウマ焦点化認知行動療法に取り組んできた。現在、目白大学専任講師として教育と研究に携わりながら、支援団体での被害者支援を継続している。性犯罪に係わる刑法改正の会議においても、委員や幹事を務める。分担執筆『性暴力被害者への支援』(誠信書房/2016 年)、『子どもの PTSD-診断と治療』(診断と治療者/2014 年)など。その他論文多数。博士(心理学)。
上谷さくらさん  齊藤梓さん

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