※写真:性被害の後遺症により、世界がモノクロに見えるようになったことをきっかけに、モノクロ写真家になった、にみやさをりさんの写真集「幽き(かそけき)声」より
24歳の冬、人生を一変させる事件が起きました
ある事件を期に、私の人生は一変しました。この事件さえなければ、どんな人生を送っていたのだろう。いくら考えたって戻れるわけでも、やり直せるわけでもないのですが、悔しい思いがこみ上げてきます。
ある事件とはーーーー。
1995年の冬、24歳のときに、信頼している職場の上司にレイプされました。金曜日の終電間際の時間、二人しか会社に残っていないときの出来事でした。
記憶がほとんど残っていないので(※)、そのときの状況をあまり詳しく説明できないのですが、すごくショックだったことだけは覚えています。
翌日の午後、派出所に相談に行きましたが、警官には「ここでは受付できない。産婦人科に行って」と取り合ってもらえませんでした。産婦人科の診察に耐えられる精神状態でもなく、そのまま家に逃げ帰ることに。その後、産婦人科や警察に、行けるような精神状態になることはなく、結局なにもしないで、いまにいたります。
ある事件とはーーーー。
1995年の冬、24歳のときに、信頼している職場の上司にレイプされました。金曜日の終電間際の時間、二人しか会社に残っていないときの出来事でした。
記憶がほとんど残っていないので(※)、そのときの状況をあまり詳しく説明できないのですが、すごくショックだったことだけは覚えています。
翌日の午後、派出所に相談に行きましたが、警官には「ここでは受付できない。産婦人科に行って」と取り合ってもらえませんでした。産婦人科の診察に耐えられる精神状態でもなく、そのまま家に逃げ帰ることに。その後、産婦人科や警察に、行けるような精神状態になることはなく、結局なにもしないで、いまにいたります。
※解離性健忘とは
被害者によくおこる症状。特定の心理や行動が、普段の意識から切り離されてしまう状態。大きなショックやストレスのかかることから精神を守るための、無意識的防御機制と定義されている。性暴力被害を立件することを困難にする理由のひとつ
上谷弁護士の解説
今から24年前の警察の対応ってそんな感じだったんです。さすがに今は改善されて、派出所に行ったら、おそらく、警察署を紹介してくれます。場合によっては警察署から迎えが来てくれたり、警察署まで送ってくれたりします。今でも警察署に行ったら、警察の対応が悪かったという話は、たまに聞きますが、門前払いされることがなくなったと思います。
上司を辞めさせてしまった罪悪感に苛まれていました
翌週の月曜日、上司の上司にも相談をしました。私は新入社員で、かつ人数の少ない編集部にいたので、(相談した上司からは)「仕事ができる人を残したい、君が辞めるのが筋だ」「やめてほしいんだったら、早く君が一人前になるしかない」「(加害者である上司の仕事を)とにかく君が引き継げ、それができるなら、会社を辞めさせてもいい」と想定外の回答。
その後、私が上司の仕事を引き継ぐことを条件に、(加害者は)会社を辞めることに。しかしながら、引継ぎの打合せで、上司(加害者)と二人になる時間が必然的に増え、再び仕事を口実に、性的関係を迫られるという最悪の事態に陥りました。
95年5月に加害者が退社するまで、数か月間、続きました。退社後も、私以外、誰も加害者の仕事を把握していないので、何か分からないことがあると、(加害者に)問い合わせるしかなく、会社のサポートは一切ありません。
ただ、どうして私がしなければならないんだという怒りの気持ちはなく、私がしなくちゃいけないとしか思えませんでした。
それは、加害者を辞めさせてしまったという、変な罪悪感に苛(さいな)まれていたからです。
私は被害者であるにもかかわらず、私のせいで力のある人を辞めさせてしまった、という思いになっていました。
その後、私が上司の仕事を引き継ぐことを条件に、(加害者は)会社を辞めることに。しかしながら、引継ぎの打合せで、上司(加害者)と二人になる時間が必然的に増え、再び仕事を口実に、性的関係を迫られるという最悪の事態に陥りました。
95年5月に加害者が退社するまで、数か月間、続きました。退社後も、私以外、誰も加害者の仕事を把握していないので、何か分からないことがあると、(加害者に)問い合わせるしかなく、会社のサポートは一切ありません。
ただ、どうして私がしなければならないんだという怒りの気持ちはなく、私がしなくちゃいけないとしか思えませんでした。
それは、加害者を辞めさせてしまったという、変な罪悪感に苛(さいな)まれていたからです。
私は被害者であるにもかかわらず、私のせいで力のある人を辞めさせてしまった、という思いになっていました。
上谷弁護士の解説
被害者の方から相談を受けるていると、成果をあげるために、加害者に残ってもらい、弱い立場の女性(被害者)に辞めてもらいたい、という会社の言い分は、今も変わっていないというのが私の実感です。
相談者が、取引先からの被害を会社に訴えたら、「相手方は大口の顧客だから困る、君が我慢してくれ」、「君が辞めればいいんだよ」と、言われたという事例があります。
また、ある会社の顧客リストの注釈には、「担当は女性限定」と書いてあるんです。先方の希望に沿って女性を担当者にすると、どういうことが起きるか分かりそうなものですが・・・。仕事の担当に性別は関係ないはずですし、会社としてはこのような要望は断るべきだと思います。
会社側の方ともお話する機会があり、「御社のような大きい会社がこんなことやったら、日本の女性(被害者)を救うことなんでできないですよ」と(会社側に)言ったことがあるのですが、その後音沙汰がなくなりました。揉み消されてしまったのかなと思います。
私のところに来る相談者は、だいたい(にのみやさんと)同じようなことを言われています。
加害者は犯行を認めたのに、民事裁判では勝つことができませんでした
1997年、加害者がレイプを認め、書面に押印。翌1998年1月には、加害者が犯行を認めたことを受け、出版社は、弁護士を立てて、社内調査を始めることに。
私は加害者が認めているのだから、勝てると思い、裁判をおこそうとしました。しかし、刑事事件の処分が行われていなかったので、非常に立証が困難で、望むような結果にはななりませんでした。
私は加害者が認めているのだから、勝てると思い、裁判をおこそうとしました。しかし、刑事事件の処分が行われていなかったので、非常に立証が困難で、望むような結果にはななりませんでした。
上谷弁護士の解説
当時、告訴するには、犯人を知ってから半年以内と、とても短い期間が法律で定められいました。事件から2年経過していたので、当時の法律では立件できなかったのです。2000年にその条件は撤廃されました。
■にのみやさをりさんプロフィール
- 1970年生まれ。横浜市在住。
- 1997年、初めてカメラを手にする。
- 2001年より年に一度のペースで、東京都国立市の喫茶店「書簡集」にて個展を催す。
- 2007年から2012年まで性犯罪被害者らと共に「あの場所から」に取り組む。
- 2010年夏、第6回アンコールフォトフェスティバルのAsian women photographers' showcase 2010にて『あの場所から』を上映。性犯罪被害者サポート電話「声を聴かせて」の活動を開始。
- 2011年秋、窓社より写文集「声を聴かせて/性犯罪被害と共に」を出版。
- 2012年6月、東京・禅フォトギャラリーにて個展「鎮魂景」
- 2013年冬ChobiMela 7 international festival of photography
Bangladesh,2013(Theme:Fragility,"From That Place: The Voice of Being") - 2014年4月5日から5月5日Reminders Photography Strongholdギャラリーにて「彼女の肖像~杏子痕」展を開催
- 2018年東京・代々木「cafe nook」にて『「乳白」、そして「忘白」へ』写真展&朗読劇上演。
- 2018年11月藤元敬二氏との二人展「聴くこと」開催
- 2019年6月東京・代々木cafe nookにて「黎明歌」開催
■上谷 さくらさん プロフィール
福岡県出身。青山学院大学法学部卒。毎日新聞記者を経て、平成 19 年弁護士登録。犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員。青山学院大学法科大学院実務家教員。保護司。殺人、性暴力被害、交通事故等の犯罪被害に関する刑事事件、民事事件を中心に活動している。焼肉酒家えびす集団食中毒事件被害者弁護団団長、軽井沢スキーバス転落事件弁護団。110 年ぶりの刑法改正の会議等にも関わる。共著『2訂版 ケーススタディ 被害者参加制度損害賠償命令制度』(東京法令出版/2017 年)『犯罪被害者支援実務ハンドブック』(東京法令出版/2017年)など。その他論文、講演多数。
福岡県出身。青山学院大学法学部卒。毎日新聞記者を経て、平成 19 年弁護士登録。犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員。青山学院大学法科大学院実務家教員。保護司。殺人、性暴力被害、交通事故等の犯罪被害に関する刑事事件、民事事件を中心に活動している。焼肉酒家えびす集団食中毒事件被害者弁護団団長、軽井沢スキーバス転落事件弁護団。110 年ぶりの刑法改正の会議等にも関わる。共著『2訂版 ケーススタディ 被害者参加制度損害賠償命令制度』(東京法令出版/2017 年)『犯罪被害者支援実務ハンドブック』(東京法令出版/2017年)など。その他論文、講演多数。